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高大接続改革は、何故、導入直前で方向転換することになったのか。(渡部代表による私的見解)

2021/04/28

2021年4月28日
株式会社キャンパス総研
代表取締役 
渡部 陽
私は、20年以上広告業界に身を置いているせいか、高大接続改革の方向転換の要因は、メディアの力が大きかったと考えています。
そもそもの原因は、平成24年(2012年)に起きたセンター試験の問題冊子配布ミスの混乱の事後処理が余ったと考えます。センター試験が、アラカルト方式になったことが、配布ミスを起こした要因になったかもしれませんが、本来の対策は、チェック機能さえきちんとしおけば十分だったはずです。しかし、メディアが大きく取り上げたため、検証委員会も時間を掛けて見直しについて取り組むという提言をせざるを得なくなったと考えます。
また、平成25年(2013年)教育再生実行本部からの通称「第一次提言」で、「英語教育の抜本的改革」の手段として「大学において、従来の入試を見直し、実用的な英語力を測るTOEFL等の一定以上の成績を受験資格及び卒業要件とする世界レベルの大学を30提訴指定し…」の記載を「大学入試にTOEFL導入」と報道したことがきっかけで、世間的な関心ごとになったのも、メディアの影響力が原因だと考えられます。

とどめは、2019年10月の萩生田光一文科大臣による身の丈発言です。この報道によって、一気に入試改革に対しての批判論が高まることになりました。
 但し、報道の裏付けとなるエビデンスを出した大学教授達がいることは、重要です。

報道は悪役を作ります。高大接続改革に関しては、第二次安倍政権下で現場の状況を知らずに、旗を振り出してしまった政治家が悪役。文科省の官僚は、論拠が薄いデータで進めつつも、責任を取りたくない文化のため、強烈に推し進めるだけの力がない右往左往している悪代官的立場。

しかし、影の主人公に現場を知る大学教授がいます。

東京大学の阿部公彦教授による民間試験が英語力よりもむしろ情報処理能力を問う問題になっている等の指摘に始まり、東北大学の倉元教授が、高大接続改革への対応に関する高校側の意見を二度に渡って調査して数字的な根拠を示し、東京大学の両角亜希子准教授が委員会で、「学力の3要素をすべて測りきることは現実的ではない」と発言するなど、報道の裏付けとなる意見を現場の教授に見いだせたことで、一気に方向転換へ舵を切ったと考えます。

大学入試は、国民的関心事であると同時に、誰もが経験しているために一家言持てるという性格もメディアが報道したがる原因になっていると考えます。
 とりわけ、この数年AIの発達で、SNSやニュースサイトなどに自動的に関心ごとが配信されるようになりました。こうした技術的な背景もメディアの影響力を高め、選挙で選ばれる政治家の判断を変える大きなきっかけになったと考えています。


参考資料
2016 荒木克洋 高大接続の日本問題
2020 倉元直樹 大学入試センター試験から大学入学共通テストへ
2019 倉元直樹・宮本友弘・長濱裕幸. 高大接続改革への対応に関する高校側の意見 ――東北大学のAO入試を事例として――
2018 倉元直樹・長濱裕幸 高大接続改革への対応に関する高校側の意見――自己採点利用方式による第1 次選考,認定試験及び新共通テスト記述式問題の活用
2018 倉元直樹・宮本友弘   大学入試における英語認定試験の利用に対する高校側の意見――主として賛否の根拠をめぐって――

本稿は、渡部陽が東京大学教育学部大学院大学経営政策各論の課題で提出したものを、復習後、大幅に編集したものになります。